Your browser does not support our video. はじめに 今回の動画は、DCF法を活用して実際に企業評価を行っていきます。 複雑な計算と思われますが、ステップに分解してそれぞれ把握することで、しっかりと身につけていきましょう。 今回の学習ポイント 今回の学習ポイントは、DCF法による企業価値評価の流れを理解する【後編】 となります。 それでは早速学習を進めていきましょう。 DCF法の算出ステップ まず、DCF法の算出ステップですが、前編でもお話した通り、大まかにこのイメージの5つのステップとなります。 FIRST STEP 事業計画の精査SECOND STEP FCFの算出THIRD STEP 割引率の算定FOURTH STEP 事業価値の算定FIFTH STEP 株主価値の算定 この動画では、DCF法の算出ステップの中でもTHIRD STEP以降のお話をしていきます。 割引率の策定 & 事業価値・株主価値の算出 THIRD STEP以降の割引率の策定 & 事業価値・株主価値の算出の部分ですが、割引率(WACC)について、類似上場企業の数値を参考に計算を進めると結果的に 5~10%程度になるケースが多くあります。 中小企業におけるDCF法による企業価値評価では、上記の割引率にサイズリスクプレミアムを上乗せし、一般的なレンジとしては、少なくとも6~14%程度になるということが考えられるでしょう。 一方で、創業から年数が経っておらずCFが安定しているとは言えない会社などは相応のリスクプレミアムを考慮し、割引率を検討する必要があります。 計算上、割引率が低いと企業価値は高くなりますが、「高すぎる」評価は適切ではないと言えます。 というのも、売主は売却をすることがゴールであるにもかかわらず、買主で評価をつけることが難しく、成約に至れないということになり得るためです。 割引率に幅を持たせて評価することや年買法など別のアプローチ手法と併せて検討するとともに、「期待収益率」または、「ハードルレート」として、例えば、20~30%などの一定の割引率を設定することなども併せて検討しましょう。 割引率(WACC)の算定方法 復習となりますが、割引率またはWACCの算定方法についてはこちらのスライドのようになります。 負債コストと株主資本コストを加重平均してWACCを求めます。 WACCの算定ステップについてはこちらのスライドの通り、 ステップ1で株主資本コストを算出し、ステップ2で負債コストを算出、求められた株主資本コスト、負債コストを式に当てはめてWACCを求める流れでした。 株主資本コスト それではまず初めに、CAPMを活用して株主資本コストを算出していきます。 アールアイと記載される株主資本コストを求めるために必要な値は、リスクフリーレート、ベータ、マーケットリスクプレミアムの3つとなります。 リスクフリーレート まず、リスクフリーレートですが、実務上、リスクフリーレートには評価時点における「日本国債10年の年利回り」を活用していきます。 2022年11月23日時点では 0.246 %となっているので、今回の試算ではそのまま0.246%とします。 ベータ値 次にベータ値について求めていきます。 ベータ値は、市場に対する個別銘柄の感応度を表現するものでした。 ベータ値の求め方 そして、個別銘柄となる対象企業のベータ値の求め方について、非上場企業は上場企業のように実際の投資収益率から算定することができないので、類似上場企業のベータ値を採用します。 上場企業のベータ値は、東証やSPEEDAなどから購入/取得するか、REUTERSの個別銘柄の指標などから確認していきます。 取得するベータ値については、集計方法・期間の違いなどにより値が異なってくるので、情報のソースは同じものを活用しましょう。 また、期間については、将来のベータを求めたいという観点からもあまり長い期間から算出される値ではなく、 日次でのリターン集計であれば1年程度、週次集計であれば2-3年程度、月次集計であれば5年程度 の値を活用するのが良いでしょう。 また、取得したベータ値はレバード・ベータと呼ばれる、個別企業の資本構成の影響を受けているため、評価対象企業に対して活用するベータ値を算出するときはアンレバード・ベータを算出していきます。 ベータ値 今回は、アパレル事業で類似上場企業を選定し、こちらの3社とします。 そして、今回は日次の集計なので、期間を1年と設定しそれぞれの企業のベータを調べると、 三陽商会が 1.42ルックホールディングス 1.13オンワードホールディングス 1.12 となりました。 また、レバードベータをアンレバードベータにするため、D/Eレシオについても調べますが、有利子負債は各企業の決算報告などを参考に取得し、株式時価総額は、証券会社やYahoo!ファイナンスのようなサイトから確認します。 ベータ値の求め方 先ほどのレバード・ベータ、D/Eレシオを式に当てはめてアンレバードベータを求めます。 実効税率については、「東京に本社を置く大企業の実効税率」が、30.62%のため、それぞれのアンレバードベータを求め平均値をとるとスライドの下の部分 0.992となります。 アンレバードベータの平均値まで求めたら、式に当てはめて対象企業のベータ値となるリレバードベータを求めます。 リレバード・ベータを求める際のD/Eレシオですが、最適資本構成とも言われますが、実際の資本構成というよりも、対象企業が目指すD/Eレシオなどの数値を活用します。 今回は、類似上場企業の資本構成の平均である0.357を対象企業が目指すD/Eレシオとして活用します。 また、実効税率については、対象企業は中小企業であるため先ほどの実効税率とは異なる、33.58%という値を活用します。 今回の例ですと、リレバードべータは0.80と算出できました。 マーケットリスクプレミアム 次に、マーケットリスクプレミアムですが、実務上、5-6%程度で設定するケースが多くあるということから、今回は6%で設定します。 小規模リスクプレミアム そして最後に、この例では小規模リスクプレミアムを上乗せすることとします。 実務上、1〜4%程度を上乗せして調整することが多くありますが、今回は、高めの4%で設定することとします。 株主資本コスト 全ての値が揃ったので、CAPMを活用して株主資本コストを算出していきます。 株主資本コストは、計算するとこのように9.06%と算出されました。 負債コスト 株主資本コストが算出されたところで、負債コストについて算出します。 負債コストは、複数の借入があり、利率が異なる場合は加重平均した利率を活用します。 この例ですと、負債コストは、1.75 %となりました。 WACC 株主資本コスト、負債コストが算出できたので、WACCの算出を行います。 D/Eレシオが最適資本構成と仮定する先ほどの0.357となるようにDebtとEquityに適切な値を入れます。 そして、WACCの式に当てはめて算出すると、WACCは6.98%と算出できました。 事業価値評価 FCFは今回の例で活用しているものを使い、先ほど求めた割引率6.98%で永久成長率は0%として事業価値を求めます。 実際に事業価値を算出する際は、求めた割引率から0.5%ずつなどの幅を持たせて、一定のレンジで参考値をみれるようにすると良いでしょう。 今回の6.98%のWACCに基づくと、事業価値は 132,746,204円と算出できました。 株主価値 事業価値が求められたところで、株主価値を算出していきます。 事業価値から株主価値を求めるのは、事業価値に現預金などの非事業価値をたし、企業価値を求め、企業価値から有利子負債を控除します。 今回のケースでは、事業価値が約1.33億円、非事業価値である現預金が300万円とし、企業価値は1.36億円となります。 そこから、借入の1000万円を控除すると、株主価値は1.26億円となります。 株主価値が1.26億円と求められたので、1株あたりの株価が知りたい場合は、株主価値を発行済み株式数で割って求めます。 今回の例ですと、1.26億円÷100株なので、一株あたりの株価は126万円となります。 また、補足になりますが、非上場企業の株式は上場企業のようにいつでも売買できるものではないので、実務上、「非流動性ディスカウント」として、30 %程度 株価を割引くケースもあります。 割引率と事業価値 さて、こちらも補足となりますが、割引率と事業価値の関係性についてもみていきましょう。 例題のように割引率が6.98%の場合、事業価値は約1.33億円となりましたが、これが、割引率10%であれば89百万円程度、割引率15%であれば57百万円弱割引率20%となると41百万円まで低くなります。 このように、事業計画によるブレ以外にも、割引率が数%変わるだけで評価が大きく変わってしまうのがDCF法でもあります。 DCF法 中小企業M&Aの実務上、類似上場企業から算出した数値は非上場企業にそのまま当てはめるのは、割引率が基本的に低すぎるため適切でないと我々は考えています。 安定事業かどうかなどの経験則による見極めなどもありますが、買主による「期待収益率」や買主が基準として持つ「ハードルレート」などの数値との兼ね合い、年買法など別の評価手法による評価や類似の取引事例における成約価額などとのバランスをみて調整していくことが求められます。